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骨が少ない上顎奥歯にも「低侵襲」で対応できる可能性
諫早ふじた歯科・矯正歯科の藤田です。9月21日に 日本のインプラント界をリードする 林 揚春先生のインプラントセミナーに参加してきました。
林先生は私が尊敬するインプラント医で日本のトップレベルの方です。
はじめに:こんなお悩みはありませんか?
「上の奥歯にインプラントを入れたい。でも上顎の骨が少ないと言われた」「大きな手術は避けたい」「治療期間や費用が心配」— 当院でもこのような相談が増えています。
このような悩みの患者さんに対して少しでも役立てるようにと、日本のインプラント界を牽引する林 揚春先生のセミナー「究極の難症例 — 垂直骨量1mmのeggshell graftless sinus liftを極める」に参加し、垂直骨量が極めて少ない症例に対する低侵襲かつ実用的な術式を学んできました。
このブログでは患者さんにも分かりやすく内容を整理し、当院での診療にどう活かすかをお伝えします。(キーワード:上顎インプラント、骨不足、グラフトレスサイナスリフト、低侵襲、治療期間短縮、費用負担軽減)
なぜ上顎奥歯は骨が足りなくなるのか?
上顎奥歯の下には「上顎洞(サイナス)」という空洞があります。歯を失うとその部分の骨は徐々に吸収され、骨の高さ(垂直骨量)が不足することが多く見られます。特に垂直骨量が1〜2mm程度しか残っていないケースでは、インプラントを十分に支持する骨がないため、従来は外側から窓を開けて骨移植を行う「ラテラルサイナスリフト」が標準的な選択でした。しかしこの方法は手術の侵襲、治癒期間、費用が増すため患者さんの負担が大きくなります。
林先生のeggshell graftless sinus liftとは?
林先生の術式は、残存するごく薄い骨(eggshell=卵殻状の骨)を最大限に活用し、骨移植材を使わずに上顎洞底を内側から慎重に挙上してインプラントを埋入する方法です。ポイントは以下の通りです。
- 薄い残存骨を壊さずに活用し、上顎洞粘膜(シュナイダー膜)を剥離・挙上する。
- グラフト(骨移植材)を用いないため異物反応のリスクを抑える。
- チタンメッシュを用いたアンブレラ(傘)形状のカバースクリューで空間を維持し、インプラントの初期固定を確保する。
- Densah bur(デンサーバー、骨を圧縮して骨密度を上げる器具)やトレフィンバーなど専用器具を併用して、薄い骨でも安全に処置を行う。
セミナーで学んだ主な内容
- 垂直骨量1mm以下のグラフトレスサイナスリフト(従来は移植補填材料を多量に使用していたが)
- チタンメッシュを用いたアンブレラカバースクリューの使用法(空間維持と粘膜負担の軽減)
- Densah bur(デンサー・バー)を用いた隔壁(中隔)処理の技術
- 垂直骨量2mm以下でのトレフィンバーを使用した安全な窓形成と埋入法
- 上顎洞迷入(サイナス迷入)や粘膜穿孔など合併症の迅速な対処法
主要技術の臨床的な意義
- チタンメッシュ+アンブレラカバースクリュー:インプラント周囲の空間を安定して維持することで、骨が入り込む環境を作ります。これはグラフトを使わない術式で特に重要です。
- Densah bur(デンサーバー)の応用:骨を押し固めながら穴をあけるため、骨密度を高めて初期固定を得やすく、隔壁や硬い骨に対しても安全性が上がります。
- トレフィンバー使用:骨を環状に切除して保存することで、骨片を戻した際に“eggshell効果”が得られ、薄い骨でも支持性を高めます。
適応と禁忌
適応例:上顎奥歯の垂直(縦方向の)骨量が非常に少ないが、全身状態が良好で口腔衛生が保たれている方。術前CTで上顎洞粘膜や副鼻腔の状態に異常がないことが確認できる場合。
禁忌例:慢性副鼻腔炎や上顎洞の持続的炎症、コントロール不良の全身疾患(例:未治療または管理不良の糖尿病)、術後メンテナンスが困難な著しい口腔内不良など。
患者さんにとってのメリット
- 低侵襲:切開や骨の剥離を最小限に抑えるため、術後の痛みや腫れが軽く済むことが期待できます。
- 治療期間短縮:従来法より治癒期間が短く、噛めるようになるまでの期間が短縮される症例が多いです(林先生は「従来の半分〜3分の1」を示唆されています)。
- 費用負担の軽減:グラフト材や大掛かりな手術を減らせる分、相対的に費用が抑えられる可能性があります。
- 感染リスク低下:移植材に伴う異物反応や移植材関連合併症のリスクが軽減されます。
術後管理と注意点
- 強いうがいや激しい鼻かみは避ける(上顎洞に圧がかかると膜に影響を与えることがあります)。
- 指示されたお薬(抗生剤・鎮痛薬など)は必ず指示通り服用する。
- 定期的に来院していただき、レントゲンやCTで骨の状態やインプラント周囲の経過を確認します。
- 発熱、膿、持続する鼻症状や顔面痛がある場合は速やかに受診してください。
当院での導入方針(安全を最優先にします)
当院「諫早ふじた歯科・矯正歯科」では、新しい術式をただ導入するだけでなく、次の手順で安全に診療へ組み入れていきます。
- 術前評価の徹底:コーンビームCTによる詳細解析と3Dシミュレーションで埋入計画を立てます。
- 機器・材料と研修:デンサーバー、トレフィンバー、チタンメッシュ等の器材を整備し、術者・スタッフの十分なトレーニングを行います。
- 症例選択と専門連携:適応基準を明確にし、必要時は耳鼻科など専門医と連携します。
- 十分なインフォームドコンセント:メリット・リスクを丁寧に説明し、患者さんの同意のもとで治療を進めます。
よくある質問(Q&A)
Q. グラフト(人工骨などの補填剤の使用)をしないで本当に骨は増えるの?
A. 残存骨や保存した骨片を利用して空間を維持することで骨形成が期待できますが、全ての症例に適応するわけではありません。術前評価が重要です。
Q. 痛みや腫れはどの程度?
A. 低侵襲術式のため従来法より軽度で済むことが多いですが、個人差があります。術後の指示に従ってください。
Q. 保険適用ですか?
A. 保険適用ではありません。自費治療となります
私の感想
「最小限の侵襲で最大の患者利益を得る」——林先生のアプローチは患者さん中心の医療理念に直結しています。私も今回の学びを十分に消化し、安全性を第一にして当院の診療で活用してまいります。
諫早ふじた歯科・矯正歯科
住所:長崎県諫早市多良見町中里129-14
電話:0957-43-2212
予約:ウェブ予約フォーム https://fujitashika.com/yoyaku/
診療内容:一般歯科、矯正歯科、小児歯科、口腔外科、インプラント、予防歯科
診療時間:平日 9:00–17:45、土曜 9:00–12:45(事前予約制)
駐車場:あり
最後に
今回のセミナーで得た知識は、骨が少ないために諦めかけていた患者さんにも新たな選択肢を提供できる可能性を示しています。当院は安全性を最優先に、最新の知見を取り入れながら患者さん一人ひとりに最適な治療を提案してまいります。治療について気になることやご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。
院長 藤田浩一
作成日:2025/09/21