2026/01/12

妊娠中に使える痛み止めはありますか?

妊娠中に使える痛み止めはありますか?

― 歯科治療を受ける妊婦さんへ、安心して知っておきたい基礎知識 ―

妊娠

「妊娠中に歯が痛くなってしまったけれど、薬を飲んだら赤ちゃんに影響があるかも……」 「抜歯が必要だと言われたけれど、痛み止めなしで耐えられる自信がない」

妊娠という人生の特別な時期、お母さんの体には大きな変化が訪れます。それに伴い、お口のトラブルも発生しやすくなりますが、多くの妊婦さんが「薬」に対して強い不安を抱えていらっしゃいます。

結論から申し上げますと、妊娠中でも比較的安全に使用できる痛み止めは存在します。 痛みを無理に我慢し続けることは、お母さんの心身に大きなストレスを与え、結果として赤ちゃんに影響を及ぼす可能性もあります。

この記事では、歯科医師の視点から、妊娠中の痛み止めに関する正しい知識と、安心して歯科治療を受けるためのポイントを、3,000文字のボリュームで詳しく解説します。


1. 妊娠中の薬に対する「基本的な考え方」

妊娠中の薬の使用において、最も大切なのは**「ベネフィット(有益性)がリスクを上回るかどうか」**という考え方です。

自己判断は絶対に避ける

普段、頭痛や生理痛で飲み慣れている市販薬であっても、妊娠中は「禁忌(使ってはいけない)」とされる成分が含まれていることがあります。特に、ドラッグストアで購入できる解熱鎮痛剤の中には、赤ちゃんの血管に影響を与えるものがあるため、必ず歯科医師や産婦人科医に相談してください。

「我慢」が正解ではない理由

「赤ちゃんのために薬を飲まない」という姿勢は非常に尊いものですが、激しい痛みは交感神経を優位にし、血管を収縮させます。食事が満足に摂れなくなったり、夜眠れなくなったりすることは、母体の体力を奪い、胎児への栄養供給や発育環境にマイナスの影響を与えることもあります。 必要な時に、適切な量を、適切な期間だけ使用する。これが現代の医療における「安全な選択」です。


2. 妊娠中に比較的安全とされる痛み止め

歯科医院で妊婦さんに処方される痛み止めの代表格について解説します。

第一選択薬:アセトアミノフェン(商品名:カロナールなど)

妊娠全期間を通じて、最も安全性が高いとされているのがアセトアミノフェンです。

  • 特徴: 脳にある痛みを感じる中枢に働きかけ、痛みを和らげます。他の鎮痛薬に比べて作用が穏やかで、胃腸への負担が少ないのが特徴です。

  • 赤ちゃんへの影響: 長年の使用実績があり、通常の服用量であれば胎児に奇形を起こすリスクや、発育を阻害するリスクは極めて低いとされています。

  • 歯科での用途: 虫歯の痛み、歯ぐきの腫れ、抜歯後の鎮痛など、幅広く使用されます。

なぜ「カロナール」が選ばれるのか

アセトアミノフェンは、胎盤を通過はしますが、胎児の動脈管(心臓付近の血管)を収縮させる作用がほとんどないと考えられています。そのため、産婦人科でも発熱時や頭痛時に処方されることが多く、歯科医院においても第一選択として検討されます。


3. 妊娠中に注意が必要な痛み止め(NSAIDs)

一方で、一般的に「よく効く痛み止め」として知られる**非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)**には注意が必要です。

代表的な成分名

  • ロキソプロフェン(商品名:ロキソニン)

  • イブプロフェン(商品名:イブ)

  • アスピリン

妊娠後期(28週以降)の使用は原則禁忌

これらの薬を妊娠後期に使用すると、赤ちゃんの**「動脈管」という大切な血管が閉じてしまったり、尿量が減ることで「羊水過少症」**を引き起こしたりするリスクがあります。また、出産時の出血量が増えたり、陣痛が弱まったりすること(分娩遅延)も懸念されます。

妊娠初期・中期も慎重に

初期から中期にかけても、基本的にはアセトアミノフェンが優先されます。どうしても強い痛みがある場合に限り、医師の厳密な判断のもとで短期間処方されることもありますが、患者さん自身の判断でこれらを服用することは避けてください。


4. 歯科治療における「局所麻酔」の安全性

「薬がダメなら、治療の麻酔も危ないのでは?」という質問をよくいただきます。

局所麻酔は赤ちゃんに影響しない?

歯科で使用する麻酔は、痛む部分だけに効かせる「局所麻酔」です。

  • 使用量: 歯科で使用する麻酔薬の量はごくわずかです。

  • 代謝: 麻酔薬はその場で分解・吸収されるため、胎盤を通じて赤ちゃんに届く量は無視できるほど微量です。

  • アドレナリンの影響: 麻酔を長持ちさせるための成分(エピネフリン)も、通常の使用量であれば子宮の血流量に影響を与えることはありません。

痛みを我慢しながら治療を受けると、体内からアドレナリンが放出され、血圧が上がってしまいます。むしろ、適切に麻酔を使ってリラックスした状態で短時間の治療を受けるほうが、お母さんの体への負担は少なくなります。


5. 妊娠中の歯科受診に最適なタイミング:安定期

治療内容とお薬の関係を考える上で、「時期」は非常に重要です。

妊娠初期(〜15週)

赤ちゃんの器官が形成される非常にデリケートな時期です。この時期の痛みに対しては、応急処置に留め、薬の処方も最小限(アセトアミノフェンのみなど)にします。

妊娠中期(16週〜27週):安定期

歯科治療に最も適した時期です。 ほとんどの歯科治療(虫歯治療、歯周病治療、抜歯など)が可能であり、必要に応じてお薬も処方しやすくなります。出産後は育児で通院が難しくなるため、この時期にお口の中を整えておくことを強くおすすめします。

妊娠後期(28週〜)

お腹が大きくなり、仰向けの姿勢(ユニットに寝る姿勢)が苦しくなります。また、急な陣痛や体調変化のリスクもあるため、この時期も応急処置がメインとなります。


6. 妊婦さんが歯を痛めやすい「3つの理由」

なぜ妊娠中はこれほどまでに歯のトラブルが増えるのでしょうか。その理由を知ることで、予防への意識が高まります。

  1. つわりによるケア不足: 歯ブラシをお口に入れるだけで気持ち悪くなってしまい、磨き残しが増える。

  2. ホルモンバランスの変化: 妊娠ホルモンの影響で、歯ぐきが腫れやすくなる「妊娠性歯肉炎」が起きやすくなる。

  3. 食事回数の変化: 少しずつ何度も食べる「ちょこちょこ食べ」が増え、お口の中が酸性に傾き、虫歯になりやすくなる。

歯が痛くなってから「どの薬が安全か」と悩むよりも、痛くなる前に安定期に歯科検診を受けておくことが、最も安全な「薬対策」と言えるかもしれません。


7. 歯科医院を受診する際のアドバイス

受診時には、以下の情報を必ずお伝えください。

  • 「妊娠中であること」と「現在の週数」

  • 産婦人科の担当医から受けている指示(あれば)

  • 現在服用しているサプリメントや薬

  • つわりの状況や、仰向けが辛くないか

これらを共有することで、歯科医師は「どの鎮痛薬を出すべきか」「どの姿勢で治療すべきか」を的確に判断できます。


まとめ:お母さんの笑顔が、赤ちゃんの健康につながります

妊娠中の歯の痛みは、本当に心細いものです。「赤ちゃんのために我慢しなきゃ」と一人で抱え込まないでください。

現在、歯科医療の現場では、アセトアミノフェンをはじめとする安全性の高い選択肢が確立されています。正しくお薬を使い、適切に治療を行うことは、決してお母さんの「甘え」ではありません。お母さんが痛みから解放され、しっかり栄養を摂り、穏やかな気持ちで過ごすことこそが、お腹の赤ちゃんにとって最大のギフトになります。

もし、今この瞬間も歯の痛みで悩んでいるのであれば、まずは一度、歯科医院へお電話ください。私たちは、あなたと赤ちゃんの両方の健康を守るパートナーとして、全力を尽くします。


諫早ふじた歯科・矯正歯科のご案内

妊娠中の歯の痛みや歯科治療について不安がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。 当院では、妊娠中の患者さまの体調や週数に細やかに配慮した、優しい歯科治療を心がけております。

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妊娠中の歯痛やお薬の不安は、「早めに専門家に相談すること」が何よりの安心につながります。諫早市周辺で妊娠中の歯科治療をご検討中の方は、ぜひ一度ご相談ください。